「散ればこそ」
散ればこそ いとど桜は めでたけれ うき世になにか 久しかるべき
(伊勢物語 第82段)
好きな短歌の一つです。
出典は伊勢物語。花見の席で右馬頭(在原業平がモデル)の詠んだ有名な歌
世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし
を受けての「又、人(ほかの人)のうた」として出て来ます。
一説には紀有常の歌とも言われているそうですが、結局だれが詠んだ歌か分からないようです。
学校の教科書にも載っていたりする「たえて桜の」の歌と較べると、「散ればこそ」の歌はそれほど有名ではないと思いますが、花の美しさを無常だからこそとする鋭い洞察に感嘆させられます。
物語では花見の席で詠まれたことになっていますが、もしかすると実際は誰かの辞世の句だったのではないか、という気がします。
細川ガラシャの辞世の句
散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ
に見られる諦念とも相通ずるように思われます。
ところで、この歌の原文は「世」のみが漢字で他はひらがなのようです。
ちればこそ いとどさくらはめでたけれ うき世になにか ひさしかるべき
ですが「散ればこそ」で検索すると、「憂き世」と記載してあるサイトが多数ヒットします。
こんなところにも現代の世相が現われているのかもしれません。